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2016年9月17日
13:35
幕末関連では司馬遼太郎の「徳川慶喜」などを面白く読んだが、会話部分が多く物足りない。
しかし、大仏次郎「天皇の世紀」は、より歴史に忠実に寄り添うアプローチを取り、最も参考になった。
会話などの創作部分は少なく、残存している日記類や唯一の通信手段たる手紙等を原文のまま紹介し、
それら一次資料を基に史実に迫っている。
幕末の偉人たちの中では、特に勝海舟と福沢諭吉が興味深い。
勝海舟ものでは、中公新書の勝海舟(松浦 玲維著)で、極貧ゆえ本屋で立ち読みを続ける見ず知らず
の青年期の勝を支援した豪商のくだりなど、感動物だった。
福沢諭吉については、日記文学では日本最高峰との呼び声高い「福翁自伝」では、(殆ど枕で寝たこと
はなく机に突っ伏して寝るなどの)猛烈な勉強ぶりや、からっとした福沢の個性に魅了された。
また、文明論之概略は、丸山真男の新書解説本ではあるが、その思想、その展開法や硬質な文章力は圧倒的だ。
最近、ひょんなことから海音寺潮五郎の武将列伝の一冊を借りて読んでみた。
勝海舟の篇と前述の中公新書での記述を比較し、その忠実度を比べて見たかったからだ。
海音寺と大仏の歴史へのアプローチは殆ど一致していた。海音寺も資料類をそのまま提示し、それらを
基に史実を浮かみあがせるのだが、多面的な資料により作者が推測した部分は「私はこう思う」と第一人称
で書き、他部分との混同を許さない。
武将列伝 源平篇
悪源太義平、平清盛、源頼朝、木曾義仲、源義経、楠木正成
武将列伝 戦国揺籃篇
足利尊氏、楠木正儀、北条早雲、斎藤道三、毛利元就、武田信玄、織田信長、豊臣秀吉
武将列伝 戦国爛熟篇
竹中半兵衛、大友宗麟、山中鹿之介、明智光秀、武田勝頼、徳川家康、前田利家
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■新潮45
毎月、図書館から4,5冊の月刊誌を借りている。論壇誌の文芸春秋、中央公論、新潮45、文芸誌の群像、新潮、文学界などだ。もちろんお気に入りの連載数本と、ざっと目次をながめて、気になる記事を拾って読んでいるのみだが。
現在それらの雑誌の中で一番面白く読んでいるのは新潮45である。
必読の連載は、反・幸福論/佐伯啓思、日本のビョーキ/里見清一、連載コラム/小田島隆の3本、他にも江藤淳は甦える/平山周吉、水戸学の世界地図/片山杜秀、鳥類学者の優雅で過酷な日々/川上和人なども面白い。
私の贔屓筋の論客や作家は、内田樹、高橋源一郎、養老孟司、大澤真幸、島田雅彦、池澤夏樹などであるが、度々当誌に寄稿するのでうれしい。当誌はリベラル系と保守系がいい感じにバランスされている。世界は、あれかこれかの2項対立ではなく、あれでもなくこれでもなく諸要因が複雑に絡み合う混沌とした世界だ。
さて、当誌の巻頭エッセイは、曽野綾子である。なんで、元お嬢さんで右翼ばりばりおばさんなんだとは最初の印象。
時に暴論もどきの直言を含むその辛口のエッセイが面白いかったので、多く著わしている新書の幾冊かを読んでみた。彼女のベースのひとつは、誰もその行いを見ていなくとも神にいつも見守られているとした、カトリック教徒としての神への敬虔な信仰心である。もうひとつは、NGOや10年間会長職を務めた日本財団で続けていた途上国支援で実体験したアフリカの極貧の現状である。その現状認識や提言には、共感するところも多い。しかし、日本にはアフリカに見られる絶対的な貧困や格差などないとした認識や、戦後の民主主義教育を否定したりなどのウルトラライトな考え方はついていけない部分だ。
雑誌の巻頭エッセイといえば、一時養老孟司や内田樹が中央公論に連載していて、それを契機に彼らのかなりの著書を読み、すっかり魅了されたものだ。
雑誌の場合、今月はどんな特集を組み、その記事は誰に依頼するのか、或いは連載は誰にするのかによって雑誌の方向性や売れ行きが決まるだろう。特に後者において、新潮45の編集力(目利き力)は素晴らしい。